百人一首53番歌
嘆きつつ 独りぬる世の 明くる間は いかに久しき ものものとかは知る
嘆きながら、独りで寝る夜が明ける間は、どれほど長く感じられることか、あなたは知っているでしょうか。
この歌は、孤独感や悲しみを抱えた夜を詠んだものです。愛する人がそばにいない寂しさを感じながら、長い夜を一人で過ごす辛さが表現されています。「嘆きつつ」は、悲しみに暮れて泣いたりため息をついたりする様子を指し、「独りぬる夜」は孤独な夜を象徴しています。
特に夜が明けるまでの時間が非常に長く感じられる心情が、「いかに久しき」という表現で強調されています。この歌に込められた感情は、愛する人との別離や、待ち続ける孤独感を繊細に表現しており、平安時代の女性の心情をよく伝えています。
右大将道綱母は、藤原道綱の母として知られ、藤原兼家との結婚生活を綴った『蜻蛉日記』の作者でもあります。彼女は、夫・兼家の冷淡さや他の女性との関係に苦しみ、孤独な日々を送っていました。この歌も、夫との関係における寂しさや悲しみを反映したものであり、夫が訪れない夜の孤独な嘆きを描いています。
平安時代の貴族社会では、結婚生活が女性にとって満たされないものになることが多く、特に夫が他の女性のもとに通う習慣がありました。道綱母の歌は、そのような状況での女性の悲しみや孤独感を見事に表現しています。